婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置について
1 はじめに
例1;Aさんには、結婚してから20年間連れ添った妻Bと子C・Dがいました。Aさんは、Cが暮らすためのマンション(2000万円)を購入し、これをCに贈与しました。その後、Aさんは死亡したところ、Aさんの遺産には、甲土地(3000万円)、乙建物(2000万円)、預貯金3000万円がありました。Aさんは、遺言書などは残していません。
例1の場合、Aさんの相続人は、B・C・Dの3人となります。そして、それぞれの法定相続分(=民法で定められている遺産全体に対する相続人が取得できる割合)は、 B;1/2 C;1/4 D;1/4 となります。
では、B・C・Dは具体的にいくらの遺産を取得することができるのでしょうか?
残された遺産の合計金額は8000万円(3000万円+2000万円+3000万円)であることから、
B;4000万円(8000万円×1/2)
C;2000万円(8000万円×1/4)
D;2000万円(8000万円×1/4)
となるとも思われますが、実はそうではありません。
Aさんが生前にCに贈与したマンションは、Cの生活の基盤に資する物にあたることから、原則、このマンションが、相続人B・C・Dが取得できる遺産の金額に影響を与えます。
例1の場合、Aさんの遺産の合計金額である8000万円にマンションの金額である2000万円を加え、その合計額である1億円にB・C・D法定相続分である1/2、1/4、1/4をそれぞれ乗じます。
B:5000万円(1億円×1/2)
C:2500万円(1億円×1/4)
D:2500万円(1億円×1/4)
そして、マンションの贈与を受けていたCについては、上記2500万円からマンションの価格である2000万円を控除することになります。
そのため、相続人B・C・Dが取得できる遺産の金額は、
B:5000万円(1億円×1/2)
C:500万円=2500万円(1億円×1/4)-2000万円(マンションの金額)
D:2500万円(1億円×1/4)
となります。
2 婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
例2;Aさんには、結婚してから20年間連れ添った妻Bと子C・Dがいました。Aさんは、自分が死んだ後も、Bが今暮らしている家で生活していけるようにと考え、結婚してから20年が経過したときに、Bさんに甲土地(1500万円)、乙建物(500万円)を贈与しました。その後、Aさんは死亡したところ、Aさんの遺産には、預貯金2000万円がありました。Aさんは、遺言書などは残していません。
例1からすると、例2の場合も、Aが生前にBに贈与した甲土地・乙建物については、Bの生活の基盤に資する物にあたることから、Aさんの遺産の合計金額である2000万円に甲土地・乙建物の金額である1500万円+500万円=2000万円を加え、その合計金額である4000万円にB・C・D法定相続分である1/2、1/4、1/4を乗じ、その後甲土地・乙建物の贈与を受けたBについては、甲土地・乙建物の金額である2000万円を控除することになり、相続人B・C・Dが取得できる遺産の金額は、以下のようになるとも思えます。
B:0円=2000万円(4000円×1/2)-2000万円(甲土地・乙建物の金額)
C:1000万円(4000円×1/4)
D:1000万円(4000円×1/4)
しかし、「婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用の不動産の贈与等した場合」、贈与をした被相続人が遺産の合計金額に贈与された居住用不動産の金額を加える旨の意思表示をしたという事情が認められない限り、遺産の合計金額に贈与された居住用不動産の金額は加えられません。
このことは、民法903条4項に規定されています。
例2についてみると、AさんがBに贈与した甲土地・乙建物の金額を遺産の合計金額に加える旨の意思表示をしたという事情が認められない限り、Aさんの遺産の合計金額である2000万円に甲土地・乙建物の金額である2000万円を加える必要がありません。
そのため、相続人B・C・Dが取得できる遺産の金額は、以下のようになります。
B:1000万円(2000円×1/2)
C:500万円(2000円×1/4)
D:500万円(2000円×1/4)
そのため、Bは、Aから生前に贈与してもらった甲土地・乙建物に加え、遺産として1000万円を取得することができることになるのです。