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扶養条件と相続

2022.10.05

 母が亡くなり、私と、兄、弟の3人で遺産分割の話合いを行っています。7年前に父が亡くなった際は、兄が母と同居して母の面倒をみることを条件に、父の遺産は全て兄が相続しました。しかし、兄は父の死後、母と同居はしているもののほとんど母の面倒をみることはなく、近くに住んでいた私の妻が母の身の回りの世話をしていました。

 このような事情があるため、私と弟は、母の遺産分割においては、兄の取得分はないものとして話を進めたいと思っています。また、父の遺産分割についても、もう一度やり直したいと考えています。

 上記のような形で、母の遺産分割、それから父の遺産分割のやり直しを行うことは可能でしょうか。

1 遺産分割のやり直しの可否

 まず、相続人全員の同意があれば、遺産分割のやり直しは可能です。

 もっとも、上記事例のような場合、遺産分割のやり直しによって損をすることになる者(上記事例でいえば兄)が同意しないことにより、遺産分割のやり直しを行うことができないことの方が多いです。

 このような場合、兄が条件の履行を怠ったことを理由に、遺産分割協議の債務不履行解除を行うことが考えられますが、判例は、法的安定性の維持の見地から遺産分割協議の債務不履行解除を認めていません。

 したがって、兄の同意がない限り、父の遺産分割協議のやり直しはできないと考えられます。

2 扶養に関する条件と遺産分割手続

 「母の遺産分割においては、兄の取得分はないものとして話を進めたい」という主張は、すなわち、兄が父の遺産分割の際に母の法定相続分を含む遺産の全てを取得したのは母から兄への贈与(特別受益)であったとして、兄の特別受益を主張するものであると法的に構成することができます。

  しかし、本来的な贈与の形とはかけ離れている上、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」(民法903条第1項)という特別受益の定義からしても、兄が母の面倒をみなかったこと(=負担なく母の法定相続分を取得したこと)を特別受益とみることは難しいと考えられます。

  したがって、上記事例においては、母の遺産分割において、父の遺産分割時の条件を兄が履行しなかったことを理由に兄の取得分をなくすことはできないと考えられます。

3 まとめ

  上記のように、先に父母のどちらかが亡くなり、残された父母の一方の面倒を相続人の1人がみるからといって、そのような扶養状況を遺産分割の条件とした場合、残された父母の一方に関する相続が発生した場合にトラブルとなる場合が多いです。このようなトラブルとならないためにも、扶養責任と相続手続とは切り離して話合いを行うことをおすすめいたします。

この記事を担当した弁護士
弁護士法人かばしま法律事務所 弁護士 塩村 貴秀
保有資格弁護士
専門分野相続
経歴熊本県宇城市出身
熊本県立熊本高等学校卒業
九州大学法学部卒業
九州大学法科大学院卒業
司法試験合格
弁護士登録(福岡県弁護士会筑後部会)
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