遺産の中に株式があった場合、どのように相続されますか?
- 2021.09.21
1.株式が遺産に含まれていた場合
亡くなったご家族が,株式を持っていたということはありませんか?
もし,死亡された人の相続人が一人であれば,この方が株式をそのまま相続します。
しかしながら,複数の相続人がいらっしゃる場合,株式をどのように相続をするか,誤解をされている方も少なからずいらっしゃるように思います。
例えば,死亡された人が100株保有しており,相続人が子供4人(A,B,C,D。いずれも法定相続分は4分の1)であるとすれば,子供がそれぞれ25株ずつ分割して相続する…というのは誤りです。
上の例の場合,100株全てを,子供たちが4分の1の割合で,共有(正確には準共有)することになります。
会社法106条本文で,株式を共有する者が,その会社に対して権利行使をする場合(例えば,株主総会における議決権や,剰余金の配当請求権など,株式を持つ者には会社に対して様々な権利を有しています),共有者の中から権利を行使する者(権利行使者)を定めて,通知をしなければならないことになっています。
2.会社法106条本文で定める権利行使者の指定方法
この権利行使者は,どのように指定するのか,という点も,問題になります。
この点については,最高裁判所の判決において,持分の価格に従いその過半数をもって権利行使者を定める旨の判断がなされています(最高裁平成9年1月28日判決。)。
簡単に言えば,共有持分権の過半数を有する者たちが指定した人が,権利行使者となります。
3.権利行使者と他の共有権者との間で意見が異なった場合
それでは,もし,権利行使者と意見が異なる人がいた場合,どうなるのでしょうか?
例えば,A,B,C,Dが,合意の上でAを権利行使者と定めていた場合に,株主総会において,甲を取締役に選任するという議案が出されたとします。
その場合に,Aは賛成しているけれども,B,C,Dが反対をしている,という場合,Aが権利行使者である以上,他の共有者の意向を無視して,甲を取締役に選任する議案に賛成する議決権行使ができるのでしょうか。
この点について,最高裁昭和53年4月14日判決では,権利行使者は,共同相続人の意思に拘束されず自己の判断に基づき権利行使をなしうる旨の判断をしています。
つまり,いくらB,C,Dが反対をしても,権利行使者として指定されたAは,(100株全てを!)賛成する形で議決権行使ができてしまうことになるのです。
4.株式の共有状態から生じるリスクの回避方法
このように,権利行使者と他の共有権者の意見が異なるようになった場合には,どのように対処するべきなのでしょうか。
1つは,権利行使者を解任する(権利行使者を変更する)という方法が考えられます。
権利行使者の解任方法については,法律上の規定はなく,最高裁判所の判例でも,この点について明確に判断したものはないようですが,下級審裁判では,権利行使者の解任について,選任の場合と同様,持分の価格に従いその過半数により決することができる旨判断したものがあります(髙松高裁昭和52年5月12日判決)。
もっとも,権利行使者を変更したにしても,権利行使者と他の共有権者との意見が必ずしも一致せず,共有権者間で権利行使に関する内輪もめが起こりうる状況には変わりないように思われます。
もう一つの方法は,株式の準共有状態を解消することです。具体的には,株式を複数の人が相続したのであれば,遺産分割協議などを行い,株式を誰が何株ずつ単独して取得するかを決定することです。
このようにすれば,自分の株式の権利について,他の人から異論を言われる筋合いもなく,自らの意思に従い自由に行使できます。
共有状態を解消することは,このようにメリットが大きいのですが,実際に遺産分割を完了させるのは,相当な時間を要することは少なくありません(私が受任をした事案では,5年近く時間がかかっているものもあります)。
そうなると,結局は遺産分割が完了するまでの相当な期間の間は,株式の共有状態が続き,紛争が生じるリスクをはらんだ状態が続くことになるといえます。
5.遺言書作成のメリット
このような事態を避けるためには,どうするべきだったでしょうか?
1つの解決策としては,生前に,遺言書で,誰に株式を何株取得させるのかを,予め定めておけばこのような事態を回避することができたと考えられます(遺留分についての配慮はしておかなければなりません)。
遺言書でこのような定めをしておけば,株式を保有している者が死亡したときに,遺産分割協議を経ずに,指定した者が指定された数の株式を単独で取得できますので,長期間にわたって複数人で株式を共有するという紛争発生のリスクが高い事態を避けることができます。
私の経験からも,株式を誰に取得させるかを遺言書で定めないままで死亡し,相続人間で紛争が続いているケースが少なからずありました。もしかしたら,株式を保有している人が亡くなった場合の権利関係やその後に控える紛争リスクに関して,それほど認識が浸透しているわけではないのかもしれません。
株式を保有している方は,ご自身の「終活」として,株式を誰に相続させるのか,それをどうやって遺言書に記すかを,考えておいて損はないと思います。
やり方が分からないという方は,ぜひ一度,弁護士にご相談されると,疑問が解消されると思います。