遺産分割協議成立前の預金払い戻しは遺産分割することができますか。
- 2021.09.21
Q
私は、遺産分割前における預貯金債権の行使の制度を利用して、遺産分割協議が成立する前に、銀行から父(被相続人)の預金口座から50万円の払い戻しを受けて、これを父の相続財産の固定資産税の支払いに充てたり、父が未納だった税金の支払いに充てたりしました。私の手元には1円も残っていません。
しかし、他の相続人は、このような使途を度外視して、私が既に50万円を受け取っていることを前提に、遺産分割をしようと提案してきます。私としては、この50万円は自分が受け取るためではなく、父の支払いに充てるために払い戻しを受けたものなのに・・・こんなことっておかしいと思います。
ちゃんと、50万円はもらっていないものとして、遺産分割することができますよね。
A
他の相続人の同意が必要です。同意がなければ、別途民事訴訟を提起して求償権を行使する必要がございます。
まず、遺産分割前における預貯金債権の行使の制度をあなたが利用したことで、あなた方相続人間では「一部分割」がなされた状態となっております。
つまり、当該50万円についてだけ、他の相続財産とは別に、先に分割協議を成立させたのと同じ状況です。そのためあなたは既に50万円取得している、という立場で他の相続人たちとの遺産分割協議に臨むことになります。
もっとも、その使い途が被相続人の債務に充てるためであったのに、自分の取り分(相続によって取得する分)が減ってしまう、という結論は、不合理です。
よって、「かかる負担は相続財産からの負担とし、それを除いた額を遺産分割の対象とすべきだ」とまずは提案していただく必要がございます。これに他の相続人が同意をした場合は、最初からそのお金は相続財産に含まれていなかった、という前提で話を進めることが可能です。大体のケースは、ここで同意がなされます。しかし、生前の被相続人の看護をしていて少しでも自分が有利に扱われるべきだと考えている人などが相続人に含まれる場合、このような「当たり前のこと」に理解を示さず、相続財産からの支出を認めてくれないことがございます。
その場合は、手間はかかりますが、遺産分割事件のいわゆる付随事項として、民事訴訟を提起し、そこで他の相続人に対して相続分に応じた負担を求め、解決させなければならない、とされています。
相続債務の支払いをする際、またそのために遺産の分割前における預貯金債権の行使の制度を利用する際には、予め、その分は相続財産の範囲から外すこと、ないし先に払い戻しを受けた分は自分が受け取った相続財産としてはカウントしないことの同意を他の相続人たちから事前に得ておいた方が、後の紛争を防ぐことができるかもしれません。